この相続の件は、このブログでも一度お話にあげたことがあります。
最初は、別の司法書士事務所に仲介者を通じて依頼されていました。
法務局に相続登記を申請したが、うまくいかずに取下げになったとのこと。
内容をお伺いしてみると、前提として
1.被相続人は依頼者の母
2.実際の相続人は、依頼者と幼いときに生き別れた兄の子供(代襲相続)2人の合計3名
3.被相続人および依頼者は在日韓国人
4.兄およびその子は帰化をして日本人
ということでした。
上記のような状態であるにも関わらず、直接依頼者に話をよく聞かず、仲介者の人を通じて情報を得ていた前の司法書士は、ろくに韓国の書類も集めず、
依頼者だけが相続人であるという内容で相続登記を申請。
当然ながら、相続関係証明書にあたる書類が足りないということで補正を求められます。
そこで、もう手には負えないということで、在日韓国人の方の相続に強い当職にご依頼となった経緯があります。
しかし、司法書士(=難易度の高い資格を取得しているはず)であるにも関わらず、相続人が依頼者だけであるという仲介者の人の話だけを信じ、ろくに韓国の書類も集めず(実際に取ったのは被相続人の最後の戸籍にあたる部分のみ)それで、登記申請まで提出してしまう、いい加減さには開いた口がふさがりませんでした。
当職としましては、その道の専門という信頼のもと、受任したからには何としても無事、ご依頼者名義に相続登記を完了して差し上げたい。
と、進めていった手続きでしたが、結構前途多難な問題が発生しました。
具体的には、
① 父母の婚姻や離婚を証する情報は韓国書類に一切載っていなかった。
② 依頼者および生き別れた兄はばっちりと韓国戸籍に被相続人の子として記載がある。
③ 被相続人の外国人登録原票の写しには、父との婚姻の記載が見えるが、離婚の旨は明らかな記載は見当たらない。
④ 生き別れた兄の子供の連絡先は不明である。
まず、父母の婚姻、離婚が載っていないことについて、これは非常に重要なところでした。
婚姻状態が続いていれば、父も相続人となる可能性があり、依頼者は幼いころ、父母の離婚により、父および兄と生き別れになってから父がどうなったかはっきり分からない状態でした。
分かるのは、生き別れになってからすぐに亡くなったという情報ぐらいです。
この部分に関しては、まずは、依頼者および兄の父親が誰かということ、母との婚姻関係は本当にあったのか、あったなら離婚したのか、を調査しなければいけない。
なぜなら、韓国戸籍に父が載っていなくても、法律上の父は存在する可能性があるからです。
日本の役所に届け出をした「出生届」や「認知届」、「婚姻届」なども韓国の書類に反映させる手続き(領事館での戸籍整理や本国の親戚などに手続きしてもらうなど)をしなければ、その事項は載ってきません。
載っていなければ相続人でないのではないか?
とも考えられますが、そんなことはなく、日本の役所に婚姻届や出生届(婚姻中に届出、あるいは、婚姻間でなくても、父が届出で認知効など)を提出することにより、婚姻関係も生じ、親子関係も生じるのです。
特に、今回のケースでは、他の書類から明らかとなっており、そこをはっきりしなければ、相続登記を完了することは非常に困難となります。
話は戻りまして、調査した具体的な内容は、
① 依頼者および兄の出生届
② 父母の婚姻届
③ 父母の離婚届
(念のため父の死亡届も調査しました)
わずかなご本人の記憶の情報を拾い集め、数カ所の役所にて上記の書類を集める。
一番重要なものは、③の離婚届。
これが出なければおそらく相続登記は、現時点では完了できていなかったと思います。
知識とノウハウをフルに活用し、なおかつ、運よくすべての書類が発行され、本当に良かったと発行されたときは小躍りしました。
残りの
「④ 生き別れた兄の子供の連絡先は不明である。」
これは、なんと、兄のもと妻と依頼者が連絡が取れたということで、ご協力いただけることになったのです。
依頼者が直接のやり取りは不得手とのこと(メールもFAXも何もないんです(-_-;))で、やり取りは当職が直接しました。
ここでも、先方はご協力はいただける意思はあるものの、本当に信用して大切な印鑑証明書などを預けてよいのかなど非常に不安がられていましたので、何度も何度も、お電話で真摯にご説明し、相続登記をせずそのままにしておくデメリット(権利だけではなく、義務を負うこともあるのです)や、最終的には、先方の意思に全面的にお任せするという、あくまでも先方のお気持ちを大切にする形で、時間はかかったものの無事相続登記をするための遺産分割協議書への捺印と印鑑証明書をお送りいただけたのです。
さあ、これで相続登記ができると思った矢先に、今度は依頼者と連絡が取れなくなる。
ここまでやっと、やっと来たのになぜ?
依頼者も少しお年配のため、万が一のことがあったのではないか?
かなり心配になりました。
仲介者の方に連絡をして、ご自宅を見に行っていただくと、どうもお元気の様子。
でも、電話は出ないし、手紙にも返信がない。
それから、数週間してやっと仲介者の方が、依頼者と話しをすることができ、無事相続登記ができました。
どうやら、途中で、生き別れの父の情報を頂いた際に昔のことを思い出されたり、奇跡的に取得できた上記書類も出ない可能性を事前にお伝えしていたため、あきらめの気持ちが強くなり、最後まで進められるとは思えず、自暴自棄になり誰からの連絡もたっていたとのこと。
せめて当職の連絡だけでも受けていただければ、気苦労も最小限で済んだのに。
まあ、今となっては、終わりよければすべて良し、です。
在日韓国人の方のかかわる相続は、このようなケースは日常茶飯事。
全く驚かないし、比べ物にならないぐらいさらに複雑なこともある。
日々、刺激受けております。 遣り甲斐あります。