相続についてのご相談で、たまにあるのが、
「他の相続人に、自分は遺産を放棄する旨の書類を一筆もらってるから、これでその人の協力なく相続手続きしたい」
というものです。
例えば、自分の父母が離婚して、そのあと父が再婚したとします。
その再婚相手が、自分は父親に関する財産はいらないので、財産を放棄するという内容の書類を一筆書いて、その後連絡が取れなくなり、居場所が分からなくなったケースなどで、放棄すると書いている書類があるからこれで自分の名義にしてほしい
というものです。
上記放棄の意味は、民法上の相続の放棄とは全く違い、自分は財産を取得しないということを表示しただけの書類です。しかも、その書類自体を手続きにそのまま使えるわけではありません。
通常、相続手続きを進めるためには、遺産分割協議により誰が何を取得するかを、相続人全員で協議し決めて(あるいは、遺産分割協議書は持ち回りで全員が捺印も可能ですので、一同に会する必要はありません)遺産分割協議書に実印で捺印し、その印影の印鑑証明書と一緒に提出することにより、初めて法定相続分以外の分け方で相続手続きを進められるのです。
よって、相続人の一人だけの
「自分は相続を放棄する」などの書類だけをもって、その人を無視して遺産分割をすることもできません。
上記のケースで、父の再婚相手が、民法上の相続放棄(家庭裁判所に相続放棄申述書を提出してする手続きでプラス財産も、マイナス財産も一切引き継がず、最初から相続人でなかったことになります)をしていれば、相続放棄申述受理証明書等を提出することにより相続手続きは可能になります。
また、上記で既に法定相続分、あるいはそれを超える特別受益を受けている場合は、相続分がないことの証明書(特別受益証明書)を作成して相続手続きを進められるケースもありますが、いずれにしても、適当な様式で、自分は遺産はいらない、相続は放棄するといった記載があるだけの書類は、それだけを使って相続手続きを進めることはできません。
心情的には、一筆もらったのに、なんでできないのか?
と思われるかもしれませんが、上記のようなケースでは後々問題が生じないように、前もって司法書士などの法律の専門家に相談し、連絡が取れうちにきちんと協力してもらうようにすることが重要です。